蘇る〈敵性外国人〉

2006/09/15記

 〈敵性外国人〉ということばを知っているだろうか。

 どういうときに使われたか、というと第二次世界大戦中のアメリカ合衆国では日系人はこのように称され、狩られた。ナチス・ドイツにもゲシュタポの中に敵性外国人対処の部署というのがあった(IV D 3 ―敵性外国人 Vertrauensstellen, Staatsfeindliche Auslander)そうだ。アメリカ合衆国の日系人の場合も、ドイツの場合も、敵性外国人といわれた人々が「交戦中の”敵国”のパスポートを有した外国人」であるわけではなくて、すでにアメリカ合衆国やドイツの”市民権”を有していても、”出自”というか”家系”が「敵国」につながっている場合にこれを”敵国人”と看做して、資産没収、強制隔離、強制追放等を行った。アメリカ合衆国の場合、国内にいる日系人だけでなく、アメリカ合衆国の”裏庭”である中南米にいた日系人も(中南米政府に圧力をかけて)逮捕させ、アメリカ合衆国内の強制収容所に監禁するという、念の入れようだった。アメリカ合衆国には建国以来の強いXenophobia―外国人恐怖症があることは改めて指摘するまでもないが、同様の恐怖症は中国にも、日本にも、韓国にも強烈に存在した/ている。

 911以降の”世界”では、外見や”出自”によって人を「敵性」と看做すことが慣行となっている。空港などで白人のおばさんは止められないのにアジア系の男、アラブ系の男は必ず呼び止められ、検査をされる。不愉快に思いつつも、しょうがないなあというしかない。文句を言えば、どこかの部屋に連れ込まれて何をされるかわからない。そういうのは「当然のことですか?」とアメリカ合衆国政府にでも、日本政府にでも聞いてみれば、「いいえ、そんなことはないです。空港担当者たちは外見や出自によって人を犯罪者扱いしているのではないんですよ」と言うだろう。しかし、現実がそうではないことは、常時空港を経由して旅する人たちには分かっている。わかっていても、しょうがねえなあ、と言うしかないのだ。

在日朝鮮人の再入国許可に制限 ミサイル発射以降 2006/08/27 朝日コム

 北朝鮮がミサイルを発射した7月5日以降、法務省が朝鮮籍の人の再入国許可に制限を加えている。従来は、海外に出る日程を1回分示すだけで、有効期間内に何回でも入国できる「数次許可」が出た。しかし現在は再入国1回限りの許可しか出ないという。韓国籍など他の定住外国人の扱いに変化はなく、制限対象は「北朝鮮との関係」を理由に在日朝鮮人に限定されている

 特別永住資格を持つ在日韓国・朝鮮人は約44万人。このうち今回の対象となる朝鮮籍の人は10万人を切るとみられる。

 法務省入国管理局長名で各地の地方入国管理局などに示された7月5日付の通達によると、当分の間、「在日朝鮮人(再入国許可書所持者)からの再入国許可申請があったときは、渡航目的、渡航先、日程等を詳細に把握し、申請を受理する」ように指示。数次の再入国許可を出す際は2回以上の渡航日程を提出させるよう求め、「2回以上の渡航日程の提出のない者は1回限りの許可とする」としている。

 北朝鮮のミサイル発射を受けて政府が決めた措置9項目のうち「我が国からの北朝鮮への渡航自粛を要請する」に基づく。自粛要請の対象は、韓国籍を含む他の外国人や日本人も含まれるが、再入国許可の制限は朝鮮籍の人のみ。行き先が北朝鮮ではない場合でも制限される。入国在留課は「北朝鮮と関係が深いと考えられる在日朝鮮人からの申請を、より慎重に審査することにした」と説明している。

 さて、この記事には驚いた。まさに”出自”によって、潜在的な犯罪者扱いをすることを、日本国が率先してやるわけだ。”自粛”というのは旅をする本人が主語だ。本人に決定権があるからこそ、国は”自粛してください”と言うわけだ。国が特定の人たちにMultiple Entryを”許さない”というのは”自粛”という言葉とはまったくかけ離れたこと。そうではないですか?じゃあ、なぜ、そんな子どもでも分かる非論理的な行為が許され、かつ、朝日新聞という大新聞がそこに何の論理の乱れもないかのごとく書いてしまえるのか?

 これで驚いていたら、追い討ちがかかった。

人権擁護委員に「国籍条項」 法務省が修正素案 2006/08/30 朝日コム

  自民党内の意見対立から国会へ提出できない状態が続いている人権擁護法案について、法務省は30日、自民・公明の「与党人権問題懇話会」に、昨春まとめた政府原案に大幅な修正を加えた素案を提示した。自民党の反対論を踏まえ、人権侵害に関する調査や加害者への指導などを行う人権擁護委員になれるのは「市町村議会議員の選挙権を有する住民」で、実質的に日本人だけとする「国籍条項」を盛り込んだ。法務省は与党協議を経て、来年の通常国会に法案を提出したい意向だ。

 現在、全国に約1万4000人の人権擁護委員がいる。現行制度にも同様の条項があり、外国人は就任できない。しかし、法務省の審議会が、定住外国人の増加をふまえて「外国人からも適任者の委員選任を検討する」よう求めたため、政府原案では、国籍条項は盛り込まれていなかった。

 これに自民党の一部などが昨春、反発。安倍官房長官も加わる拉致議連は昨年3月、「朝鮮総連の関係者が委員になる可能性を否定できない」などと批判した。法案が人種などを理由とする「嫌がらせ」や「不当な差別」を禁じる点については「北朝鮮による拉致問題への対応を批判したりすることまでも、在日韓国・朝鮮人への人権侵害を助長したと解釈される可能性がある」としていた。自民党議員などでつくる「真の人権擁護を考える懇談会」も同様の主張をしていた。(下線、阿川)

 「北朝鮮による拉致問題への対応を批判したりすることまでも、在日韓国・朝鮮人への人権侵害を助長したと解釈される可能性がある」・・・これ自体、どういう意味が判然としないけれど、がんばって解釈すると、『北朝鮮政府を批判することが、在日朝鮮人の人権侵害だ、ということになりかねない』ってことかしら・・・。ブッシュ政権を批判すると、在日アメリカ人が自分たちの人権を侵害されたと訴える・・・?そういうことなのかな・・・。
 うーん、じゃあ、天皇を批判すると、日本人が自分の人権を侵害されたと訴える?うーん、うーん。何かが大きく〈間違ってる〉。阿川は明確に言いますよ、もし麻原が”多くの人を殺せる人”だから”当然有罪”で”当然死刑”なのであれば(今日のNHKの論調)昭和天皇も、ブッシュ・ジュニアも”当然有罪”であると(「死刑」に関して阿川は一切認めませんが・・)。さて、私は”日本人”といった中傷的な存在を”侮蔑”しているのか?そうだ、という考え方があるとしたら、それは非常に恐ろしい考え方だ。

 唸っているだけでは埒が明かないのでネットをいろいろ見てみたら、この法案に反対するページの中に「外国人が委員になったら、北朝鮮批判もできなくなる、云々」と書かれたページが少なからずあって、阿川はさらに唸るのだった。そのような反対者たちは、この「国籍条項」を入れることで賛成に回るのだろうか。(大方の―まあ阿川がそんなものかなと納得のいった―”法案反対”ページが主張しているのは、人権侵害かどうかを判定する”人権委員会”なるものの公平性の保証がないにも関わらず大きな権力を握ることだ。政治家の汚職などが、この法案に守られて追求できない。それでも追求したら裁判所の命令なしに家宅捜索や押収がなされる。”人権委員会”は好きなように誰かを”人権侵害者””差別者”と名指しで糾弾することができ、それが後で誤りであると判明しても謝罪を要求されない・・・そのあたりに共通の疑念があるようだ。)

 この「国籍条項」云々の話は、やはり北朝鮮ミサイル事件と、そして長年に渡る北朝鮮バッシングと大きく関係していることは明確だ。この条項で排除しようとしているのが「在日朝鮮人」だということだ。”北”であるか”南”であるかという区分は、あるとき、ある人たちが、恣意的に作り出して地図上に勝手に線を引いたものだ。それを本人の政治的立場であるかのように扱うことは、ちょうど”日系人”であるから”日本の戦争に加担している”と了解することと同じ愚だ。ステレオタイプなどという柔らかい表現では間に合わない露骨な嫌がらせ、Xenophobia、病気だ。で、昔からそういう病気の人はいくらでもいる。いるけれど、それを(多くのチェック機構が働いているはずの)政府の提出する法案の中で堂々と(?)述べるということは、どういうことか。

 この”日本国”においては在日朝鮮人は”敵性外国人”だ、ということを”公”が認めてはばからない、ということだ。本人の釈明も、証拠も何も必要がないのだ。ただ北朝鮮籍であるだけで、敵性なのだ。 

人権擁護法(案)

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